【ホーチミン・メトロ1号線】Phuoc Long駅(フックロン駅)|コンテナに囲まれた異色の高架駅

ホーチミン・メトロ1号線Phuc Long駅のアイキャッチ画像。駅名サインを背景にしたデザイン。交通・移動
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※本記事の内容は筆者が2025年10月に現地を訪れた際の取材をもとに構成しています。

ホーチミン・メトロ1号線の駅紹介シリーズ第6回は「Phuoc Long駅(フックロン)」である。駅を降りた瞬間、目に飛び込むのは見渡す限りのコンテナ群。まるで貨物駅の中に旅客線を通したかのような、異色の雰囲気である。

駅西側に広がるコンテナ群の風景。Phuoc Long ICD港の近く。
駅東側のPhuoc Long ICD港入口。駅周辺は一面にコンテナが並び、物流拠点らしい光景が広がる。

Phuoc Long駅は相対式ホームを採用した高架駅で、Xa Lộ Hà Nội(ハノイ大通り)沿いに位置している。周辺の駅と同じく、新しく清潔な造りである。
しかしホームに立つと、他の駅とは明らかに違う光景が広がる。線路のすぐ向こうには、整然と積み上げられた無数のコンテナ。特に駅西側にはその数が多く、視界のほとんどをコンテナが占めている。Xa Lộ Hà Nội沿いの東側には「Phuoc Long ICD Port(フックロンICD港)」の入口看板も見られ、この周辺一帯が物流の中心地であることを感じさせる。
都市鉄道の窓越しに、これほどまでにコンテナを間近で眺められる場所は珍しく、産業の力強さと非日常感が同居する風景である。

車窓から見えるコンテナ群の風景。Phuoc Long駅の近く。
車窓からも大量のコンテナを望む

見渡す限り続く光景は、日本でいえば千葉の京葉線沿いに広がる工業地帯を思い起こさせる。南国の強い日差しの下で見るその規則的な景観は、どこか現実離れした印象さえある。

Phuoc Long駅の案内板に表示された「Exit 2」。実際には存在しない出口。

駅構内の造りは他の駅と大差ないが、ひとつだけ目を引く点がある。案内板には「Exit 2」と表示されているが、実際に地上へ降りる階段は見当たらない。未完成のまま案内だけが残されており、開業初期ならではの光景である。
こうした“存在しない出口”は他の駅でも時折見られ、完成へ向けた過程を感じさせる一場面でもある。

Phuoc Long駅高架下のバイク駐輪場。
高架下には通勤客のバイクがずらりと
駅下に並ぶ多数のバイク。ベトナムらしい通勤風景。
ベトナムでは自転車ではなくバイクが駅利用の主流。

高架下には広々とした駐輪場が整備され、びっしりとバイクが並んでいる。日本であれば自転車が主役となる場所だが、ここではもちろんバイクである。
多くの市民がバイクで駅まで来て、そこからメトロで通勤や通学をしているようだ。高架下という限られた空間をうまく活用しつつ、ベトナムらしい生活のリズムが息づいている。

駅の出口を出ると、Xa Lộ Hà Nộiを横断する歩道橋があり、反対側へ渡ると住宅エリアに入ることができる。歩道や信号の整備はまだ発展途上で、車とバイクの往来が激しく、広い道を渡ることになる。徒歩での移動はやや注意が必要。

メトロ駅としての利便性は高いものの、歩行者目線では今後の改善に期待したいところ。

Phuoc Long駅から見えるコンドミニアムHim Lam Phu Anの外観。

Xa Lộ Hà Nộiを渡ると、駅近くには遠目にコンドミニアムが目立つ。

Him Lam Phu Anの共用の青空ジムスペース。
住民が利用する青空ジム。コンビニ(GS25)もあり郊外型住宅の利便性を感じる一角。

その代表が「Him Lam Phu An」で、敷地内には小さなフィットネススペースや遊歩道、コンビニもあり、住民がのんびりと過ごす姿が見られる。駅からは徒歩10分程度で日本なら徒歩圏内だが、駅まで歩く文化が根づいていないベトナムではバイクか車で行く距離か。

Phuoc Long駅の開業によって、こうした郊外型の住宅地が、メトロの延伸によって通勤圏として息づき始めた印象を受けた。

駅の東側には住宅街が広がっているが、カフェや飲食店は少なく、Thu Duc駅周辺のような賑わいは見られない。歩いてみても店舗はまばらで、どちらかといえばコンテナ置き場とローカル住宅が混在する静かな一帯である。

駅東側にある寺院「Đình Thần Phú Thọ」。
駅東側にある小さな寺院。地域住民の祈りの場として親しまれている。

そんな中で目を引くのが、小さな寺院「Đình Thần Phú Thọ」である。赤と金を基調とした門構えが印象的で、地域の人々が集い、祈りを捧げる姿が見られる。観光というより、ホーチミン郊外の素朴な生活を感じられるスポットである。

駅の北側へ回ると、コンテナヤードのすぐ向こうに高層マンションが立ち並ぶ。産業と住宅が隣り合うこの風景は、まさにPhuoc Long駅の象徴だ。
ホームから都市部方面を望めば、An Phu駅方面の高層ビル群が姿を現し、郊外から新興都市へと移り変わる境界にいることを実感する。周辺では倉庫跡地の再開発も進みつつあり、将来的には住宅や商業施設が増える可能性もある。
今はまだ工業エリアの色が濃いが、メトロの開業によりこの一帯も少しずつ姿を変えていくだろう。Phuoc Long駅は、“暮らしと物流の交差点”として、ホーチミンの新しい都市風景を象徴する存在だ。

コンテナ群と住宅地が隣り合う風景。
物流エリアと住宅エリアが隣接する、Phuoc Long駅らしい風景。

Phuoc Long駅は、ホーチミンの「物流の裏側」を間近に感じられる貴重な駅である。ホームから見えるコンテナ群、未完成の出口、ぎっしりと並ぶバイクたち——どれもこの街の今を映し出すリアルな風景だ。
観光や買い物の目的で訪れる場所ではないが、コンテナや鉄道風景が好きな人には印象に残る駅だろう。周辺にホテルはなく、カフェもローカル店が点在する程度である。とはいえ、こうした“日常のベトナム”を感じられる点こそ、この駅の魅力ともいえる。
派手さはないが、都市が拡張していく過程を肌で感じられる、静かで奥行きのある駅だ。

次回は隣の「Rach Chiec駅」を紹介します。
→ 【前回】Binh Thai駅の記事はこちら
→ 【次回】Rach Chiec駅の記事はこちら

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