広告が一切ない!? まだ新しさが残るホーチミン・メトロ|日本とは少し違う15の発見

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ホーチミン・メトロ1号線が開業し約10か月経過した。
ベトナム南部で初めての地下鉄として注目を集めるこの路線、「どんな雰囲気?」「日本とどう違うの?」と思う人も多いだろう。

実際に全駅を乗り歩いてみると、駅の構造や雰囲気、そして運営スタイルまで、日本のメトロとは随所に違いがあった。
ここでは、実際に全駅を乗り歩いて見えてきたホーチミンメトロの“日本とはちょっと違う特徴”を15個紹介したい。

現在は1号線のみ運行中だが、全路線が描かれたホーチミンメトロの未来マップ。

駅構内の路線図には、開業しているのは1号線だけなのに、将来計画中の全8路線やモノレール区間が堂々と描かれている。
グレーで示された未開業区間を含めると、まるで東京のようなネットワーク。
「まだ1本なのに全部出す?」というツッコミを入れたくなるが、それもまた未来を先に見せるベトナム流のポジティブさ。
全路線開業は遥か先と思うが、“夢を先に掲げて実現していく”という国民性がよく表れている。

構内に商業広告がなく、メトロ関連ポスターだけが並ぶ通路。
「構内に商業広告がなく、メトロ関連ポスターだけが並ぶ通路」の別の場所

構内を歩くと、驚くほど静かだ。
それは音ではなく、“視覚的な静けさ”である。
日本の地下鉄なら求人や不動産の広告が壁を覆うが、ホーチミンメトロには商業広告が一切ない

壁を飾るのは「HCMC METRO」のロゴに加え、車両や停車場を撮影した大型パネル、構内の風景写真など。
いずれも広告ではなく、“メトロそのものを見せる展示”だ。まるで駅全体がギャラリーのような雰囲気で、清潔感と誇らしさが同居している。

実はこれ、広告を“出していない”というより出せない段階らしい。
ベトナムでは屋外広告の設置が法で細かく規制されており、「屋外広告メディアのマスタープラン」を作成する義務が法律(Law 16/2012 on Advertising)に定められている。(dazpro.com)
こうした制度面の背景も、現時点で構内広告がない理由の一つと考えられる。

加えて、開業直後の今は「まずはきれいに見せたい」という意図もあるのだろう。ピカピカの無音ホームを体験できるのは、今だけかもしれない。

「No Hot Water」「No Balloons」「No Animals」など独特な禁止表示。

「熱い飲み物禁止」「風船禁止」「動物禁止」――。
このピンポイントさ、もはや芸術である。
なぜ“風船”なのかと思えば、開業イベントで子どもが持ち込むことを想定しているという説も。
安全配慮とローカル事情が融合したサイン文化だ。
こういうところに、国の個性が出る。

「ポイ捨て禁止」「横たわり禁止」を示す駅構内の掲示。

車内には「No Littering(ポイ捨て禁止)」の隣に「No Lying Down(横たわり禁止)」の文字。
座席で横になり寝てしまう人を想定しているのだろう。
公共空間を“自宅の延長”にしがちな生活感がにじんでいて、思わず笑ってしまう。
真面目さとおおらかさが共存する、ベトナムらしい禁止サインだ。

「右に立ち、左を歩く」ことを示すHCMC METROの案内。

貼り紙には「Stand Right, Walk Left」。
つまり関西方式である。
日本では「歩かず両側立ち」が推奨されているが、こちらは“歩く人優先”の文化。
利用者がこのルールに慣れていく過程そのものが、新しい都市文化の誕生を感じさせる。

リサイクル可・不可に分けられたHCMC METROのごみ箱。

ホームや改札、通路の各所にごみ箱が設置されており、
リサイクル/非リサイクルの2分別になっている。
日本では安全面や衛生面から撤去が進む中、ここではむしろ増やしている印象。
現在は利便性を保ちながら清潔に維持できており、素直に称賛したい。

駅トイレ内に設置された観葉植物。

どの駅のトイレにも鉢植えの緑が置かれている。
無機質な空間に小さな自然。
“緑を置くだけで印象が変わる”ということを改めて実感する。
維持は大変そうだが、これを毎日世話しているスタッフに拍手を送りたい。

ホーチミンメトロのホームドアと赤い警告ライン。

1号線の全駅にはホームドアが標準装備されている。
開業時点で全駅導入というのは東南アジアでも珍しい。
足元を見ると、白線ではなく赤いラインが引かれており、これを越えると駅員からすぐに注意を受ける。

開業直後らしい緊張感と安全意識の高さが漂うホーム。
駅員は常に目を光らせ、赤線を一歩でも越えようものなら即注意。
その真剣さは少し驚くほどだ。

それでも不思議と圧迫感はなく、“ルールを守る文化を根づかせよう”という熱意を感じる。
ベトナム流の真面目さがにじむホーム風景である。

ケーブル付きでスマホを充電できる設備。

ホーム脇や改札近くに無料の充電コーナーがあり、USB-CとLightningのケーブルがぶら下がっている。
“持ってなくても充電できる駅”という発想が面白い。実際に使ってみたが充電可能であった。
空港では見ても、地下鉄ではなかなか見ない光景だ。
利用中はスマホを盗まれないよう注意が必要だが、“便利すぎる公共設備”の象徴でもある。

駅構内で使える無料Wi-Fiの案内。
駅構内で使える無料Wi-Fiの速度テスト結果。

全駅で「@METRO FREE WIFI」が利用できる。
実測9.4Mbpsと十分な速度で、動画視聴も可能だった。
改札入出場はQRコード式も利用可能なので、通信インフラとの相性も良い。
インターネットが“駅の設備”になった瞬間を感じた。

駅構内にある救護室の入口。

各駅に「First Aid」と表示された救護室が設置されている。
実際に使われる場面は見ないが、“あるだけで安心”という存在感がある。
安全を形にした設備として評価したい。

ガラス張りで中の様子が見える駅員室。

改札横の駅員室はガラス張り。
中の様子が丸見えで、透明性100%。
「サボれない仕組み」とも言えるが、実際は利用者が声をかけやすい心理的デザイン。
信頼を生むインフラとはこういうことだと思う。

プラットフォーム上にある駅員室と勤務する職員。

高架駅では上下線それぞれに駅員室があり、常に複数名のスタッフが配置されている。
“人の目で守る安全”がここではまだ主流だ。
手厚い体制が、利用者の安心につながっている。

駅構内に掲げられた多数のベトナム国旗。

郊外駅を中心に、天井から国旗がずらり。
開業祝賀ムードと国家の誇りが入り混じった光景で、まるで“社会主義的祝祭空間”。
ここでは公共交通そのものが、国の象徴なのだと実感する。

駅構内中央の円型インフォメーションカウンター。

多くの駅に設けられた円型カウンターは見栄えが良く、観光都市らしい配慮。
ただし実際にスタッフがいることはなく、“設備は立派だが無人”というギャップが面白い。
問い合わせは駅員室で対応してもらえる。

ホーチミンメトロ1号線は、まだ始まったばかり。
だがその設計・思想・運営のどれを見ても、
「清潔で、安全で、少し味わい深い」という形で都市の未来を映している。

旅行前に「治安は?」「使いやすい?」「どんな雰囲気?」と感じている人にとって、
この路線は“ホーチミンの今”を知る手がかりになるだろう。

完璧ではないが、どこか愛おしい。
この鉄道が、ホーチミンという街の未来予告編であり旅の入口であることは間違いない。

👉 各駅の詳細はこちら:
ホーチミン・メトロ1号線 駅紹介シリーズまとめ

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