※本記事の内容は筆者が2025年10月に現地を訪れた際の取材をもとに構成しています。
ホーチミン・メトロ1号線の第10回は、サイゴン川沿いに位置する「Tan Cang(タンカン)駅」。
周囲には高層コンドミニアム群が立ち並び、駅を出ると目の前にそびえるのがベトナムで最も高い超高層ビル「Landmark 81」。ここはホーチミンの新都心と呼ぶにふさわしいエリアだ。

Tan Cang駅は高架区間で最大規模のメトロ駅

Tan Cang駅は、高架区間の中でも最大級の規模を誇る。
プラットフォームは2面4線(島式ホームが2組)で、他の駅と比べても圧倒的に広い。現在は中央の2番線と3番線のみがメトロ1号線の上下線として使用されており、1番線と4番線はまだ稼働していない。将来的には他路線との接続や延伸に使われる可能性もあり、今後の展開が注目される。
下層の改札フロアも同様に広々としており、エスカレーターやエレベーターなどの設備も充実している。もっとも現時点では乗客数はそれほど多くなく、どこか“だだっ広い”印象を受けた。

メトロ5号線との接続予定|将来の拡張計画
Tan Cang駅の構造を見ていると、ただ広く立派に見えるだけでなく、明らかに将来を見据えた設計が施されている。プラットフォームは2面4線構造で、現在は中央の2線(2番線・3番線)のみが稼働中だが、両端の線路は今後の拡張や他路線との接続を想定して残されているように見える。改札階も他駅に比べてゆとりのある設計で、通路や階段の幅にも余裕がある。

実際、駅構内に掲示されているホーチミン・メトロ全体図にも、淡い色で「Line 5(5号線)」を含む将来路線が描かれており、Tan Cang駅がLine 1とLine 5の交差駅として設計されていることがわかる。

この構想についてはVnExpressの記事でも触れられており、駅の4線構造が将来的な乗換機能を想定していると説明されている。
また、市が公表している都市鉄道マスタープランでも、Line 5は市中心部から東西を横断する主要路線として計画されており、この接続が実現すればTan Cangはメトロ網の重要な結節点となるだろう。都市開発系メディアFuture Southeast Asiaでも、Tan Cang駅を「Line 1とLine 5が交わる拠点駅」として紹介している。
ただし、構想と実際の建設が一致するかどうかは別問題である。Line 5の正式ルートや接続方式、動線設計、予算・用地取得など、実現に向けた課題は多い。
それでも、Tan Cang駅のスケールと設計を見る限り、将来のメトロ拡張の要として大きな期待が寄せられていることは間違いない。
Landmark 81への行き方と徒歩ルート
駅を出てまず目を引くのが、空高くそびえるLandmark 81の姿である。
このビルを含む「Vinhomes Central Park」一帯がTan Cang駅の主要なアクセス先で、徒歩でおよそ10〜15分の距離にある。
ただし、このルートは少し歩きにくい。
他の駅のように歩道橋(Exit 3)から大通りを渡れるわけではなく、徒歩の場合は駅から東側に回り込み、Vo Nguyen Giap通りの下をくぐる必要がある。


道はあるが薄暗く、ゴミが散乱している箇所も見られた。夜に歩くには少し抵抗を感じる環境である。さらにNguyen Huu Canh通りの一部では歩道が途中で途切れており、交通量の多い通りを横切る必要があったりと徒歩アクセスの改善余地は大きいと感じた。

上記行き止まりを避けるため、徒歩で向かう際は、右ではなく左側の歩道を利用するとよい。
バス160番で行くVinhomes Central Park

徒歩に代わる手段として、駅の2A出口から発着する160番バスでのアクセスがある。
Ga Văn Thánh駅を起点にVinhomes Central Parkを経由して再び起点に戻る循環型ルートで運行されている。途中の停留所で自由に乗り降りでき、Tan Cang駅前から乗車すれば、Landmark 81やVinhomes Central Parkエリアまでそのままアクセス可能である。運行区間や停留所は Moovitの公式ルート案内 に詳細がある。


電気バスで車内は冷房付きで5,000ドンと快適だが、利用者数はまだ少なく、メトロとバスの連携は今後の課題といえる。
Tan Cang駅周辺は交通量が多く、幹線道路に囲まれているため、公共交通をどう活かすかが今後のポイントになりそうだ。
Vinhomes Central Park散策|ホーチミン新都心の風景

ランドマーク81を中心とするVinhomes Central Parkは、ホーチミンの“今”を象徴する場所である。
整備された芝生の公園とサイゴン川の穏やかな流れ、そしてその背景にそびえる高層住宅群。例えるなら、シドニーのオペラハウス近くのRoyal Botanic Gardenのような洗練された景色がある。

公園では子ども連れの家族や犬の散歩をする人々が多く、どこか余裕を感じさせる。郊外の住宅エリアとは異なる“別世界”のような雰囲気で、ホーチミンの発展と都市の格差を同時に感じるエリアだ。

北側のローカル街並みと生活感ある通り

駅の北側(ランドマーク81の反対側)に出ると、景色は一変する。
そこにはローカルな街並みがまだ残っており、幹線道路沿いにはベトナム式のカフェや居酒屋、食堂が並んでいる。メトロというよりも、車やバイクで訪れる人が多い印象だ。
駅の規模感とは裏腹に、周囲は生活の匂いを残すエリアで、ホーチミンの「新旧の対比」がもっとも感じられる一角である。
カフェ「Du Lam Roasters」で過ごす静かな時間

Tan Cang駅の近くで一息つくなら、「Du Lam Roasters」がおすすめ。
鉄筋コンクリートを基調としたモダンな外観に、開放的なガラス張りの店内。
Wi-Fiやトイレも完備され、ノマドワーカーにも人気が出そうな雰囲気である。店内では静かにPC作業をする人もいれば、外のテラス席でコーヒーを楽しむ人もいる。
看板メニューの「Banacoco(バナナ+ココナッツのアイスドリンク)」は南国らしい甘さで、暑い日の休憩にぴったり。営業時間は7:00〜22:00と使い勝手もよい。
まとめ|Tan Cang駅は“今と未来”をつなぐ拠点

Tan Cang駅は、ホーチミン・メトロ1号線の中でもっとも「都市のコントラスト」を感じられる駅である。
駅自体は巨大で近代的だが、徒歩アクセスはまだ整備途中。
一方で、ランドマーク81やVinhomes Central Parkという新都心エリアがすぐ近くにあり、発展のエネルギーを肌で感じることができる。
なお、Tan Cang駅の立地はランドマーク81に近接していながら徒歩導線がやや限定的で、都市計画上もう一歩踏み込めばより利便性の高いハブになったのではと感じる。もし駅がLandmark 81の高層住宅群付近に設けられていれば、利用客は桁違いに増えていたと思われる。 それでも、駅周辺の再開発や動線整備が進めば、その潜在力はまだ十分に引き出せるだろう。
開発がさらに進めば、Tan Cang駅はホーチミンの新たなハブ駅として、メトロ5号線を含む都市鉄道網の中心になる可能性を秘めている。
今はまだ、未来への伸びしろを抱えた途中段階の駅――そんな印象である。
次回は隣の「Van Thanh Park駅」を紹介します。
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