※本記事は2025年11月時点の現地取材に基づいています。
ハノイメトロ3号線(Nhon〜Cau Giay区間)は、2024年の部分開業以来、ハノイ西部の新しい交通軸として注目を集めている。
なかでもMinh Khai〜Le Duc Thoの4駅区間は、中心部のような賑わいはまだ少ないものの、沿線開発と住宅建設が急速に進む成長エリアだ。
本記事では、現地取材をもとにこの4駅を歩き、郊外の静けさから再開発エリアまで、ハノイの“今とこれから”を写真とともに紹介する。
Minh Khai駅 ― 青が印象的な郊外の静かな駅
鮮やかな青の柱が印象的で、郊外の静けさと緑が調和する駅。


ハノイメトロ3号線の西端に近いMinh Khai駅(ミンカイ駅)は、相対式ホームを採用した高架駅である。構造は他駅と同じだが、特徴的なのは濃い青色の柱と壁面デザイン。淡い色の基調の駅が多い3号線のなかで、ここだけは鮮やかな青が印象的で、ホームに降り立った瞬間に空気が変わる。
他の駅では各ホームに安全確認のためのスタッフが常駐していたが、取材時のMinh Khai駅ではその姿が見られなかった。利用客が少ない郊外駅ゆえ、運用を簡素化している可能性が高い。乗降は1時間に数十人ほどで、列車の走行音だけが響く静かな駅だ。
駅周辺はまだ開発途上で、駅下の好立地には園芸ショップが並ぶ小さな商業エリアが形成されている。

観葉植物や盆栽が所狭しと並び、まるで緑のトンネルを抜けるような雰囲気だ。

駅の反対側にはホンダ、三菱、日産などのバイクディーラーが集中しており、郊外らしい“バイク天国”の風景が広がる。
中心部の近代的な駅とは違い、ローカルな暮らしの延長線上にメトロが存在しているのがMinh Khai駅の魅力だ。
Phu Dien駅 ― 工業団地と生活の風景が混ざる郊外駅
小規模な工場や研究施設が点在し、生活と産業が混ざり合う。


ハノイメトロ3号線Phu Dien駅(フーディエン駅)は、カウザイ駅からおよそ10分の距離にある。淡い白緑色の柱と落ち着いた照明が印象的で、3号線の標準デザインを踏襲している。利用者はまだ少ないものの、ホームにはスタッフが常駐し、安全確認を丁寧に行う運用体制が保たれていた。
駅を降りると、そこにはハノイ中心部では見られないローカルな風景が広がる。高架下にはトラック型のドリアン販売屋台が止まり、果実を並べて商う姿が東南アジアらしい。香りが漂い、通りがかりの人々が足を止める。

駅のすぐ近くには「Viện Hóa học Công nghiệp Việt Nam(ベトナム化学工業研究所)」の施設があり、その周囲には潤滑油メーカーや自動車整備工場、化学関連の企業などが点在している。

この一帯は軽工業や研究施設が集まる小規模な産業エリアになっており、都心部の住宅地とは異なる空気が流れている。
通り沿いにはPVOILの大規模ガソリンスタンドもあり、依然として車やバイクが主役のエリアであることを実感する。

Phu Dien駅周辺は、ハノイ郊外の「生活」と「産業」が交錯する現場。
観光地ではないが、西ハノイの日常を垣間見られる。
Cau Dien駅 ― 生活の中心にあるローカル市場と活気
朝市のにぎわいが街を包む、地元の生活が息づく駅周辺。


Cau Dien駅(カウディエン駅)は、駅下を走る幹線「Cau Dien通り」に名を冠する駅。駅構造はPhu Dien駅と似ており、淡い緑色の柱が特徴。ホーム上からは遠くにCau Giay方面の高層ビル群を望むことができ、郊外から都心への境界線を感じることができる。
駅から徒歩5分ほどの場所には、地元住民で賑わう「Cau Dien市場」がある。


早朝から多くの人が訪れ、野菜・肉・魚・衣料品・仏具・電化製品とあらゆる品が並ぶ。特に午前中の活気は圧倒的で、旧市街のドンスアン市場よりも生活感が強く、観光客の姿は見られない。
市場の周辺にはフォー店、ブンチャー店、理髪店などが軒を連ね、ローカルハノイの息遣いがそのまま残っている。
Cau Dien駅の東側に目を向けると、住宅街の向こうに高層マンション群が近づき、都市化の波が確実に迫っているのがわかる。

郊外の静けさのなかに発展の気配を感じさせる、ハノイメトロ3号線の象徴的な駅である。
Le Duc Tho駅 ― 再開発が進む西ハノイの新しい中心
大型開発が進み、高層ビルと新しい街並みが立ち上がりつつある。

ハノイメトロ3号線の西側エリアにあるLe Duc Tho駅は、沿線でも特に再開発が進む注目の地域だ。ホームの柱は黄土色で、他駅よりも温かみのある印象。駅から眺めると、周囲にはすでに高層ビルが立ち並び、都市の輪郭が現れ始めている。


駅前では、ハノイメトロ3号線沿線でも注目される「Hồ Tùng Mậu Tower」の建設が進行中だ。
約35階建ての複合高層ビルで、オフィス・ホテル・商業施設・サービスアパートメントを備える大型開発プロジェクトになっている(出典:diaoc123.com.vn)。
投資主体はTừ Liêm Import Export CompanyとCentral Capital社の合同で、運営には、ハノイ在住者にも馴染みのある高級サービスレジデンスブランド「Somerset」が参入予定。駅直結の立地にあり、完成すれば3号線沿線でも象徴的な西ハノイのランドマークとなる見込みだ。
周辺には ZEI Plaza や SunSquare、ハノイ商科大学(TMU)などの施設が立ち並び、街の景観はすでに高級住宅エリアに近い。


さらに、徒歩圏にはハノイ日本人学校があり、日本人駐在員の家族層にも人気がある。
駅南側のDuong Khue通りには、ローカル食堂とモダンなカフェが並び、若者や学生でにぎわう。特に「Umee Coffee」は、ガラス張りの2階席から街を眺められる人気店だ。

Le Duc Tho駅は、郊外というよりもすでに“新都心の入り口”。
ハノイの西側がどのように成長していくのかを象徴する、将来性豊かな駅である。
まとめ:郊外4駅が映すハノイの「現在地」
Minh KhaiからLe Duc Thoにかけての4駅は、いずれも観光目的ではなく生活が中心の駅になっている。
その分、開発の進行度や街の空気にリアルな差があり、ハノイの都市構造の“層”を知るうえで非常に興味深い区間だ。
緑の多い静かなMinh Khai、産業エリアのPhu Dien、ローカル市場のCau Dien、そして再開発が進むLe Duc Tho。この短い区間に、ハノイの「過去・現在・未来」が凝縮されている。
西部区間は今後、住宅や商業施設の建設がさらに進むとみられ、ハノイメトロ3号線の価値を支える重要な生活圏になるだろう。
郊外から都心へ、そして再開発へ――この4駅は、ハノイがどの方向に成長していくかを映す“動く街の記録”である。
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出典・参考
ハノイ都市鉄道管理委員会(MRB)公式サイト
※本記事は2025年11月時点の現地取材および公開資料に基づいて作成しています。



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