【最新版】ハノイメトロ3号線・Chùa Hà駅|都市型エリアなのに利用が伸びにくい理由

この記事は約6分で読めます。

※本記事は2025年11月時点の現地取材に基づいています。

ハノイメトロ3号線の沿線で、都市の密度をもっとも強く感じられるのがChùa Hà(チュアハー)駅である。名前の由来は、徒歩5分ほど離れた場所にある古い寺院「Chùa Hà」。ただし駅前から寺が見えるわけではなく、周囲には高層アパートやオフィスビルが立ち並ぶ、市街地特有の人口密度の高さが特徴のエリアである。

生活動線の中心に立つ“都市型の駅”

Chùa Hà駅の夜の外観。高架構造と周囲の市街地が光に照らされている。
夜の Chùa Hà駅。都市型エリアらしく、周囲は夜まで明るい。

Chùa Hà駅が面する Cầu Giấy通りは、西ハノイでも屈指の幹線で、朝夕は通勤・通学の車とバイクで非常に混雑する。駅周辺は高層アパートやオフィスが集まり、市街地らしい密度と生活機能の整ったエリアである。

Chùa Hà駅前と周辺の市街地の様子。
駅前に広がる高層ビル群。駅下のCau Giay通りは朝夕は通勤バイクで非常に混雑する。

ただし、人口が多い割に駅の利用者は想像より多くない。理由は、隣のCầu Giấyで路線が途切れてしまうため、乗り換えも先への接続もなく“使いどころが限られる”構造にある。駅の利用が奪われているのではなく、路線自体が“ここで行き止まり”のため、メトロを選ぶ動機が弱いのだ。

逆方向の国家大学駅は学生利用が見込める一方、Chùa Hà駅は「Nhon側の住民」によるピンポイントな需要が中心で、市街地としてのポテンシャルを十分に発揮できていない。高層住宅が多いエリアであるだけに、地下区間の開業で状況が大きく変わる可能性がある駅である。

相対式ホームの高架駅、都会の奥行きを感じる眺め

相対式ホーム。3号線らしい青いガラス屋根で明るい雰囲気。
Chua Ha駅プラットホームから見える街並み。背の高いビルが多く見える。

Chùa Hà駅は沿線の他駅と同様、相対式ホームの高架駅である。3号線の高架駅に共通する青いガラス屋根から光が差し込み、ホーム全体が明るい雰囲気に包まれている。赤茶色の柱がアクセントになっており、駅構造の中で視覚的な印象は比較的強い。

ホームから周辺を見下ろすと、ビルが密集する都市部ならではの景色が広がる。郊外駅にあるような開放感はなく、むしろ“都市の中に浮かぶ通路”から街を見渡しているような感覚に近い。建物が近接して並ぶため、前後左右から街の密度がそのまま迫ってくる。

Chùa Hà駅の駅名サインと後ろに聳え立つ高層ビル。
駅名サイン。周辺は高層住宅が密集する市街地エリアに位置する。

改札階は広めに造られているが、利用者が限定的なため、時間帯によっては静けさが際立つ。都市型の駅ではあるものの、人流の強さが十分に発揮されているとは言えない現状がある。

Chùa Hà駅の改札階。利用者が少なく静かな時間帯もある。

駅名の由来となった Chùa Hà寺と周辺のローカルな空気

Chùa Hà寺の門。駅から徒歩5分の静かな寺院。
駅名の由来となった Chùa Hà 寺の門。静かな空気が漂う。

Chùa Hà駅の名前は徒歩5分ほどの場所にある Chùa Hà寺に由来している。筆者自身、長年ハノイに住んでいながらこの駅ができるまで寺の存在を知らなかった。おそらく、同じ印象を持つ人も多いのではないだろうか。

寺院は決して大規模ではないが、木々が生い茂り、境内には落ち着いた時間が流れている。

Chùa Hà寺の境内。木々に囲まれた落ち着いた雰囲気。

鮮やかな屋根瓦と古い門が特徴で、地元の人々が静かに祈りを捧げている。また若い層の間では、恋愛祈願の寺として密かに知られている。普段は観光地として混み合うことはないが、年末年始や節目の行事ではそれなりに参拝客を集める存在である。

駅前からは寺が見えるわけではなく、駅名だけを見ると「寺の最寄り駅」という印象を受けるかもしれないが、実際にはその雰囲気を感じることはほとんどない。寺を目的にこの駅を訪れる人は多くなく、あくまで市街地の生活動線の中に寺がたまたま存在している、という距離感である。周辺の喧騒とは対照的に、寺の境内だけは静かな空気が漂っており、地域に根付いた“ローカルの祈りの場”といった立ち位置に近い。

Chùa Hà 寺の場所を地図で確認する(Googleマップ)

駅前のランドマーク・Discovery Complexの変化

Chùa Hà駅前にあるDiscovery Complex外観。商業フロアの空室が目立つ。
駅前のランドマーク・Discovery Complex。かつては多くのテナントが入っていた。

駅を出るとすぐ目に入る巨大な複合ビルがDiscovery Complexである。商業フロアにはかつてロッテマートや牛角などの日系レストランをはじめ、衣料品店・日用品店が多数入居し、駅開業前から周辺住民の買い物拠点として機能していた。

しかし現在の様子は大きく異なる。久しぶりに訪れてみると、テナントの大部分が撤退し、フロアは驚くほど静まり返っていた。以前のにぎわいを知っている身からすると、まるで別の建物に来たかのような変化である。近隣で買い物をするなら、AEON Mall Xuân Thủyのほうが実用的である。

報道によれば、商業フロアは80%近い空室率に達しており(VnExpress, 2025年4月)、さらに消防安全基準(PCCC)関連の問題によって一部階で営業停止命令が出されたこともある(TienPhong, 2025年6月)。これらがテナント減少の大きな要因とみられている。また、ハノイ全体でも高層階・奥側の商業スペースは苦戦しており、Discovery Complexもその波を受けている。

ハノイメトロChua Ha駅構内から見たDiscovery complex。
プラットホームからも目の前に見えるDiscovery complex

ただし地下にある巨大な駐車・駐輪場は稼働しており、市街地では貴重な駐輪スペースとしての役割は維持している。商業施設としての力は弱まっているものの、「生活動線の一部」としての機能は残っていると言える。

駅構内で見かけた“喫煙コーナー?”という小さな違和感

小ネタになるが、駅構内はしっかり禁煙マークが出ているにもかかわらず、階段を上がった先の“駅に入る直前”のスペースには普通に吸い殻入れが置かれており、しかも中には使用済みの吸い殻が入っていた。構内なのか外なのか、判定が非常にあいまいな位置で、「ここはセーフなんだろうか?」とつい考えてしまう。入出場者の動線上である駅の入り口に喫煙コーナーのようなものがある光景は、日本ではまず見ない配置で、ハノイらしい“境界がゆるい”空気を感じさせる場面であった。

Chùa Hà駅入口に置かれた吸い殻入れ。禁煙の構内に入っている。
禁煙の駅構内にある吸い殻入れ。
Chùa Hà駅入口付近に置かれた吸い殻入れ。禁煙マークの近くに設置されている。
これは外側なのでセーフ?

こうした緩やかな線引きや、利用者の行動と設備のギャップは、ハノイの公共空間で時々見られる独特の“曖昧さ”であるとも感じた。細かな点ではあるが、現地らしい文化の違いとして興味深い。

市街地のポテンシャルを持ちながら、路線構造で伸び悩む駅

Chùa Hà駅は郊外駅とは異なり、都市型エリアとしての密度と生活機能が十分に備わっている。しかし、現状の3号線はすぐ隣の Cầu Giấyで途切れてしまうため、市街地としての規模に対して鉄道の“役割”が追いついていないという印象が強い。駅そのものの魅力というより、都市交通の構造がこの駅のポテンシャルを巧く拾えていない状況である。

とはいえ、この位置づけは永続的なものではない。地下区間が開業し中心部へ直結すれば、Chùa Hà駅は“都市の狭間にある駅”から一転し、沿線の動線をつなぐ中間拠点として存在感を高めていくだろう。市街地の厚みを抱えたエリアであるだけに、路線延伸後の変化は特に大きいはずで、今後の展開を見守りたい駅である。

Chua Ha駅の高架へ上がる階段とエスカレーター

ハノイメトロ3号線 全駅ガイド一覧もあわせてご覧ください。

▶ 前の駅:国家大学駅ガイド

▶ 次の駅:Cau Giay駅(始発/終点)ガイド

コメント

タイトルとURLをコピーしました