日本の鉄道計画もなぜ遅れるのか|北海道新幹線・リニアとベトナム都市鉄道を比べる

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日本の大型鉄道計画にも、工期の遅れが目立つようになってきた。
北海道新幹線やリニア中央新幹線でも、大幅な遅れが目立っている。

こうした動きを見ていると、ハノイやホーチミンの都市鉄道を追ってきた身としては、どうしても既視感がある。

ベトナムの都市鉄道も、工期の遅れと費用増を繰り返してきた。
もちろん、日本とベトナムでは制度も資金もまったく違う。単純に同じとは言えない。

それでも、大型鉄道計画という枠で見ると、地盤、地下工事、費用増、行政調整といった共通点が見えてくる。

この記事では、日本とベトナムの鉄道計画で似ている点と、同じようには語れない点を分けて考える。

北海道新幹線とリニアはなぜ遅れているのか

日本の大型鉄道計画で、いま工期の遅れが注目されているのが北海道新幹線の札幌延伸とリニア中央新幹線である。

北海道新幹線は、当初2030年度末の札幌延伸を目指していた。
しかしトンネル工事の難航などにより、開業時期は2038年度末ごろまで後ろ倒しとなる見通しが示されている。

遅れは、開業時期だけの問題ではない。
工期が延びれば、工事費、人件費、資材費、現場維持費はその分だけ膨らむ。開業が遅れるほど、費用対効果も厳しく見られる。

実際に、財務省は札幌延伸について、費用対効果が「事業を中止すべき水準」まで落ち込んでいるとの試算を示した。

費用対効果を見る指標のひとつが、費用便益比である。
かけた費用に対してどれだけの便益が見込めるかを示す数字で、1を下回ると費用に見合う効果が出にくいとされる。
財務省の試算では、北海道新幹線札幌延伸の費用便益比は、前回再評価時の0.9程度から0.6程度まで下がるとされている(日本経済新聞)。

つまり札幌延伸は、単に開業が遅れているだけではない。
工期遅れと費用増によって、事業を続ける根拠そのものが揺らいでいる。

リニア中央新幹線も、予定通りには進んでいない。
品川―名古屋間は当初2027年の開業を目指していたが、静岡工区を中心とした調整の長期化などにより、その目標はすでに断念されている。

現時点では開業時期は明確に示されておらず、工事の進み方次第でさらに後ろにずれる可能性もある。

北海道新幹線とリニアは、どちらも日本の鉄道計画の中では特に大きな案件である。
それでも、地質、地下工事、環境、費用、行政調整といった要素が重なれば、予定通りに進めるのは難しい。

この構図は、日本だけの話ではない。ハノイやホーチミンの都市鉄道でも、似た問題が起きてきた。

ハノイ・ホーチミンの都市鉄道も工期遅れを繰り返してきた

ハノイメトロ3号線のCau Giay行き車両
ハノイメトロ3号線の高架区間。地下区間を含む全線開業には、なお時間がかかる見通し。

ハノイとホーチミンでは、2010年代前半から都市鉄道の整備が進められてきた。
少なくとも2014年ごろには、すでに工事中の都市鉄道が街の風景の一部になっていた。
ただし、その過程は計画通りとは言いがたい。

たとえばホーチミンの都市鉄道1号線は、当初2018年の開業を目指していた。
しかし実際の開業は2024年12月までずれ込み、当初計画から大きく遅れる形となった。

ホーチミンメトロ1号線の高架駅に停車する車両
2024年に開業したホーチミンメトロ1号線。長い工期を経て、現在は市内東部と中心部を結んでいる。

ハノイの都市鉄道も同様である。
現在運行されている2A号線(カットリン〜ハドン)は、何度も開業時期が延期され、最終的に2021年に開業した。
建設中の3号線も、当初計画から遅れながら段階的に開業している状況だ。

私自身も、ハノイメトロ2A号線ハノイメトロ3号線に実際に乗り、駅ごとの様子を記録してきた。
ホーチミンの都市鉄道1号線についても、開業前後の現地の変化を見てきた。

こうした遅れは、単に工事の問題だけではない。
資金調達、設計変更、用地取得、施工体制など、複数の要因が重なっている。

現地にいると、高架や駅舎は少しずつ形になっていく一方で、開業時期だけは何度も後ろへずれていった。

日本の新幹線やリニアと、ベトナムの都市鉄道は規模も制度も違う。
それでも、遅れの理由を分解すると、重なる部分は多い。

工期遅れの共通点は「地下工事・費用増・調整の長期化」

地下工事・トンネル工事は想定外が起きやすい

まず共通しているのが、地下工事やトンネル工事の難しさ。

鉄道トンネル工事の様子(イメージ)

地質、地下水、既存構造物との干渉、掘削中の想定外の障害。
図面上では計画できても、実際に掘ってみないと分からないことがある。

北海道新幹線の札幌延伸では、渡島トンネルなどで想定より硬い岩盤や地質条件に直面し、工事が難航している。これが開業延期の大きな要因のひとつになった。

リニア中央新幹線でも、南アルプストンネルを中心に地下水や地質の問題があり、静岡県との調整が長期化している。

ベトナムでも事情は似ている。
ハノイでは地下水位が高く、軟弱地盤が広がるエリアも多い。地下区間の施工では水の処理や地盤の安定化が課題になり、工事が思うように進まない場面が見られてきた。

工期が延びるほど費用も膨らむ

工期の遅れは、そのまま費用増につながる。

人件費、資材費、施工管理費、現場の維持費。
開業が後ろにずれるほど、支出は続き、収入や便益の発生は遅れる。

北海道新幹線の札幌延伸で費用対効果が問題になっているのも、この構造と関係している。
遅れれば遅れるほど、当初の前提で計算した採算や便益は崩れていく。

ベトナムでも同様である。
ホーチミンの都市鉄道1号線でも、工期の長期化に伴い、事業費の増加や支払い遅延、契約調整が問題になってきた。

関係者が多く、調整に時間がかかる

鉄道計画で時間がかかるのは、工事だけではない。

国、自治体、事業者、住民、施工会社、資金提供者。
関係者が多いほど、調整には時間がかかる。

日本では、環境や水資源を巡る調整が典型例である。
リニア中央新幹線では、静岡県が大井川の水資源への影響を懸念し、工事着手が長期間認められなかった。

ベトナムでは、用地取得、交通規制、海外資金との調整が工期へ影響している。
たとえば都市部の高架駅や地下駅では、既存道路の上や周辺で工事を進めるため、道路の一部閉鎖、迂回、周辺店舗や住宅への影響が避けられない。

さらに、ODAや海外企業が関わる事業では、設計変更や追加費用が出たときに、ベトナム側だけで判断できない場面も出てくる。
工事そのものだけでなく、周辺調整と資金条件の見直しが、開業時期を後ろへずらしていく。

ただし日本とベトナムの鉄道計画は同じではない

ここまで見ると、日本とベトナムの鉄道計画は似ているように見える。
ただし、遅れが持つ意味は大きく違う。

需要と採算の見方が違う

日本では、路線ごとに需要の規模や投資に見合う効果が細かく問われる。
リニア中央新幹線の品川―名古屋間は、東海道新幹線という巨大な既存需要を前提にできる。一方で、北海道新幹線の札幌延伸は航空との競争もあり、需要や費用対効果がより厳しく見られる。

ベトナムの都市鉄道は、少し見方が違う。
既存の鉄道需要を置き換えるというより、バイク中心の都市から公共交通を使う都市へ移行できるかが大きなテーマになる。
渋滞、大気汚染、中心部への移動集中をどう減らすか。都市鉄道は、単なる移動手段ではなく、都市の形を変えるインフラとして扱われている。

資金の出どころと追加費用の扱いが違う

日本は国内資金を中心に進められる。
そのため、工期が延びて事業費が膨らめば、国や自治体、事業者の負担として表れてくる。

ベトナムでは、日本や欧州などからのODAや海外資金が大きな役割を持つ。
遅れが出ると、国内財政だけでなく、融資条件、契約、施工会社、支援国との関係といった要素が絡んでくる。
このため、議論はやめるかどうかより、どの条件で続けるかに寄っていく。
途中で止めれば、契約、対外関係、都市計画への影響が大きい。だからこそ、止めるよりも条件を組み直して続ける方向になる。

事業を評価する物差しが違う

日本では費用便益比をもとに、事業継続の是非が問われる。
札幌延伸のように、数字が1を下回れば、このまま続けていいのか、という議論になる。

一方、ベトナムの都市鉄道では、採算だけでは判断しきれない面がある。
渋滞緩和、都市の拡張、駅周辺開発、バイク依存からの転換といった目的があるためである。

つまり、日本では投資に見合う便益があるかが強く問われる。
ベトナムでは、都市の将来に必要な基盤を作れるかが重視される。

同じ工期遅れでも、見ている物差しが違う。

大型インフラは完成までの過程に難しさがある

新幹線や都市鉄道は、完成すると一気に評価が変わる。
利用者にとっては、開業後の便利さがすべてになる。

ただし、大型インフラで難しいのは完成までの過程である。

日本でも、工期遅れは今に始まった話ではない。
トンネル工事や地元調整で難航した例はこれまでもあった。

それでも現在の北海道新幹線やリニアでは、遅れの重みが違う。
人手不足、資材高、環境、自治体調整、費用対効果といった要素が重なり、工期の遅れがそのまま事業全体の評価に直結する。

ハノイやホーチミンの都市鉄道でも、工期の遅れと費用増は繰り返されてきた。
形は違っても、大型インフラが完成までに時間と調整を要する点は共通している。

完成した鉄道だけを見ていると、その途中で何が起きたのかは見えにくい。
しかし、工期の遅れや費用増を追っていくと、その国の制度、財政、都市問題、政治の動きまで見えてくる。

鉄道計画を見る面白さは、そこにある。

まとめ|日本もベトナムも同じ、では終わらせない

北海道新幹線やリニアの遅れを見ていると、ハノイやホーチミンの都市鉄道で見てきた光景を思い出す。ただし、日本もベトナムと同じだと見るだけでは、重要な違いが見えなくなる。

細かく見ると、遅れの理由、資金の構造、事業を評価する物差しは違う。

似ている部分はある。
ただし、同じではない。

工期遅れを通して見ると、日本とベトナムそれぞれの社会の違いが見えてくる。
完成した路線だけでなく、完成までの過程を見ることで、鉄道計画の捉え方は変わる。

出典・参考

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